古池の春

 本書に収められた「古池の春」「初しぐれの夢」「見えない天道」に関しては、今から二十年以上前に書いたものが元になっている。そのため引用文献も古いものが多いし、その頃は網野善彦とともに中沢新一の影響も強く受けていた。

 今になって読み返してみると至らない所や意味不明な所も多く、結局大幅に書き直すことになった。新しく書いた所と古いままの所に、やや文体などの差もあるかもしれない。

 文学論という意味では、本書は基本的には精神論ではなく、あくまで科学的な議論がしたいと思っている。人類学や脳科学なども取り入れて、宗教にかかわる問題でも極力精神論を避けるようにした。

 エピステーメに関しては筆者が学生の頃読んだミシェル・フーコーの影響を強く受けている。これに関しては批判もあると思うが、歴史を考える上では今でも有用な手段だと思う。言語に関してはスティーブン・ピンカーの影響が大きいと思う。

 基本的には人類の歴史も生命四十六億年の歴史の延長線上にある連続的なもので、人間だけを特殊な存在だとは捉えていない。この辺りは宗教的に拒絶する人もいるかもしれないが、ご容赦願いたい。

 いずれにしても、学問の発展のためにはいろいろな立場の人が自由に議論できることが大事だと思う。「汁も鱠も」は今回書き足したものだが、学問もまた花の下のような誰もが自由に参加できる場であることを願いたいと思う。

 学会に属さず俳歴もない卑賤なものではあるが、無下に排除されないことを願いたい。