こやん独吟「其角忌や」の巻

其角忌追善俳諧歌仙


初表

 

   令和五年三月二十四日

   其角忌追善

 其角忌や静かになったこまの恋

   花散る頃の阿夫利山麓

 息切らす豆腐屋の道長閑にて

   ジョギングすれば続くシャッター

 月明り誰が出てくるあの屋敷

   かぼちゃ飾りの並ぶいくつか

 

初裏

 行く秋はゾンビの群れか骸骨か

   粗末な武器のいくさ哀れな

 ふりゆくは闇夜に光る雪ならで

   机の写真いつの昔か

 スク水の幼馴染は笑うのみ

   愛を込めたる昼は重箱

 紫の野辺の野守は耳とがり

   今日初午のお稲荷の里

 三陸のわかめの山を売る店に

   堤防高く空遥かなり

 グランドの野球も終わり月一つ

   畑の屑にコオロギの声

 

二表

 空腹に明日を夢見た秋の暮

   解体される古い工場

 埋もれてく時の長さは錆色に

   老いたる猫は毛並みつくろう

 くったりと犬は散歩の時を待ち

   食事忘れてその家の痴話

 今更のカミングアウトにべもなく

   いつものように教鞭に立つ

 一生はただ黒板を前か背か

   テレビに映る幻の月

 ひたすらに長雨続く長い夜

   始発を待てばさらに冷え込む

 

二裏

 言い訳の言葉も浮かばないままに

   笑い取ろうとあがく別れか

 涙にもグリコ看板背を向けて

   星の見えない空を仰げば

 夜桜の花の灯りの賑わいに

   行く人戻るコロナ明けの春