現代語訳『源氏物語』

03夕顔

 源氏の君が六条御息所の所にこっそりと通ってた頃、内裏を出て六条へ向う途中の宿にと、大弐(だいに)乳母(めのと)がひどく体調を崩し尼になったのを見舞いに、五条へとやってきました。

 

 車を入れようとすると門は錠が鎖されていて、人に乳母(めのと)の息子の惟光(これみつ)を呼んで来させて、来るのを待ちながらごちゃごちゃとした大通りの様子を眺めていると、乳母の家の隣に真新しい(ひのき)を編んで作った檜垣(ひがき)があり、その上半分は半蔀(はじとみ)という外開きの窓になっていて、それが四五軒ほど開いた状態になり、そこに掛けてある白い簾がとても涼しげで、女の可愛らしい額が透けて見えて、みんなで外を覗いているようでした。

 

 立ったままうろうろしているのだろうかと、檜垣で見えない下の方を思うと、やたらと背が高いように感じられる。

 

 一体何の集まりなのだろうかと、ちょっと変な感じがしました。

 

 網代車(あじろぐるま)もごく目立たないようにして、先導して人払いする人もいなかったので、どうせ誰だかわかるまいとなれなれしくも少しその家を覗いてみると、門も格子に板を張った{|しとみ}のようなものが上に開いていて、何となく殺風景な家を見て悲しげに、この世の家は所詮仮住まいなのかとしみじみと思ってますが、源氏の君の住むきらびやかな御殿も似たようなものではないでしょうか。

 

 板を連ねた垣根に青々とした草の蔓が気持ち良さそうにからまって、その白い花だけがにっこりと笑って眉を開いてました。

 

 「をちかた人に物申す(遠くより来た人に伺いたい)。」

 

と『古今集』の「うちわたすをちかた人に物申すわれそのそこに白く咲けるは何の花」のつもりで誰に言うともなく呟くと、お付きの者がひざまずき、

 

 「あの白く咲いているのは夕顔といいます。

 

 花の名前は人に似るといいますか、こういう薄汚い家の垣根に咲いたりするんですよ。」

 

と言う。

 

 確かに小さな家が多くごちゃごちゃとしたこの界隈のそこかしこ、家は薄汚く崩れかけていて、傾きかけた軒端などに絡まっているのを見て、

 

 「何とも無残な運命の花だなあ。

 

 一輪折ってこいや。」

 

と源氏の君が言うので、お付きの者はさっきの上に開いた{|しとみ}の門の中に入り、夕顔の花を一輪折ってきました。

 

 すると、色あせた引き戸の出入り口のところには似つかわしくないような、黄色い生絹(すずし)(ひとえ)(ばかま)を長く引きずった可愛らしい(わらわ)が出てきて手招きをします。

 

 しっかりと薫物をした白い扇を持ってきて、

 

 「これに乗っけてゆくといいよ。

 

 この花はつる草だから、そのままだとしなっとして情けないからね。」

 

と言って差し出したところ、門を開けて出て来た{惟光|これみつ}{朝臣|あそん}がそれを受け取り、源氏の君の献上しました。

 

 「鍵をどこに置いたかわからなくなりまして、大変ご迷惑をおかけしました。

 

 ご身分がばれる心配のないような所ではありますが、こんな雑然とした大通りでお待たせしたりして。」

 

と、惟光は丁重に詫びを入れます。

 

 こうして、車を引き入れて、下車しました。

 

 惟光の兄の阿闍(あざ)()大弐(だいに)乳母(めのと)の娘や娘婿の三河の守なども来て集まってたところで、源氏の君の来訪を喜び、この上ないことと身を正しました。

 

 尼となった大弐(だいに)乳母(めのと)も起き上がり、

 

 「あたしゃいつ死んでもいいようなもんだけど、心残りだったのは、ただこんなふうにあなた様の御前にいる時に変わり果てた姿を見てがっかりなされやしないかということで、なかなか出家の決心がつかなかなくてな。

 

 じゃが、こうして出家して具足戒を受けることで生き返ったように、こんなふうにあなた様がやって来られてこうして会うことができたことを思うと、今では仏様がお迎えに来る日もすっきりとした気持ちで待ってられるわな。」

 

などと言って、弱々しく泣き崩れました。

 

 「ここのところずっと病が治まることもなく、心配で心配でじっとしてもいられなかったというのに、こんなふうに出家した姿を見るのは、とても痛々しく残念でなりません。

 

 どうか長生きして、私がもっと出世するまで見守ってください。

 

 そのあとでこそ、九品(くほん)上品上生(じょうぼんじょうしょう)の極楽浄土に心置きなく生まれ変われるというものです。

 

 この世に少しでも心残りなことがあれば、成仏の妨げになるといいます。」

 

そう言っては、源氏の君も涙ぐみます。

 

 卑しくて逆風に耐えてきた人でも、乳母のような特別な人とあっては、あきれるくらい順風満帆の高貴な人間であるかのように扱うもので、ましていつもお傍で仕えてきた晴れがましい人からとあれば、勿体無くもかたじけなくも感じられるもので、乳母も思わず涙もろくなるものです。

 

 子供達はひどく見苦しいと思って、捨てたはずの世にいまだ未練があって、自分から弱音を吐いているみたいだと、互いに小突きあって目配せをしています。

 

 源氏の君は大変哀れに思って、

 

 「幼い頃に愛するべき母や祖母に急に亡くなって捨子同然だったところに、世話をしてくれた人はたくさんいたけれど、本当に親も同然に思って可愛がってくれた人は他にいないと思ってきたんだ。

 

 大人になってからは立場もあって、しょっちゅう一緒にいるわけにもいかなくなって、会いたい時でも会いに行くことができなくなったけど、でも長く会えずにいた時には心細い思いをしていたというのに、こんな別れは嫌だよ。」

 

というふうに気遣って話しかけると、涙を拭った袖の匂いが部屋の中を所狭しとばかりに充満して、それを思うにつけても並々ならぬ人と前世からの縁を感じ、尼君のこの世への未練をいかがなものかと思ってた子供達も、みんなこうべを垂れてました。

 

 祈祷などをまた始めなくてはというようなことを子供達に命じて、帰るからといって惟光に紙燭を持ってこさせ、さっき貰った扇を見たところ、よく焚き込まれた移り香がたっぷり染み馴染んでいて、そこには歌が気ままにさらさらとなかなか魅力的な文字で書き付けてありました。

 

 それはきっとあなたでしょうね夕顔の

     花に白露の光添えたの

 

 何気ないようでいて寓意を込めているあたりに、高貴なものの端くれを感じさせ由緒ある家柄を感じさせるので、あんな家に住むにしては意外な感じで興味がそそられます。

 

 源氏の君は惟光に、

 

 「この西っ側の家は一体どんな人が住んでるんだい?

 

 何か聞いてないかい?」

 

と尋ねるので、いつもの助平心で面倒くさいなとは思うものの、まあそう言うわけにもいかず、

 

 「ここんとこ五、六日ここに居りましたけど、病人のことばかりが気がかりで看病に専念していたので、隣のことはまったく聞いてません。」

 

などと、何ともそっけない返事で、

 

 「そんな勘ぐるなよ。

 

 ただこの扇のことで尋ねたいことがあるだけなんだ。

 

 いいから、このあたりの事情を知っているものを呼んで聞けって。」

 

と命じるので、家に入って、そこの家の番人を呼んで尋ねることとなった。

 

 「揚名(ようめいの)(すけ)という人の家です。

 

 旦那の方は田舎に赴任していて、奥さんのほうは若くて派手好みで、兄弟姉妹も宮廷で仕事していてここに通ってくる、と言ってました。

 

 詳しいことは一介の番人の知るところではないようです。」

 

そういった報告でした。

 

 だったら、その宮廷に出入りしている人に違いない‥‥、いかにも得意満面でこういう気を持たせるような歌を手馴れたように書き連ねるなんて‥‥と、そんなすごい身分の女ではないとは思ってみても、それでもこうして声をかけてくれたというのは満更でもないし、放って置くわけにもいかなくなるのが、この人のチャラい所でもありますね。

 

 メモ帳を取り出し、正体がばれないように筆跡を変えて、

 

 近寄ってはっきり見たい黄昏の

     ほのかに見えた花のゆう顔

 

 さきほどのお付きの者に届けさせました。

 

 誰なのかはっきりと確認したわけではないけど、その横顔にははっきりと思い当たるものがあって、注意を引こうと歌を贈ってみたけど、返歌もなく時間だけが過ぎていったので、何とも体裁が悪いなと思っていたところに、今になって改まった形で返歌を持ってきたものだから、それに乗じて何て言ってやろうかなどと女房同士で言い合っているような様子になり、何だかなーという感じでお付きの者は戻ってきました。

 

 先導する人の松明ほのかに灯り、源氏の君のお忍びの車は去っていきました。

 

 先の家の半蔀(はじとみ)も閉じられました。

 

 隙間から漏れる灯りは螢よりももっと微かで寂しげでした。

 

 本来の目的地だった六条御息所の家は、木立や植え込みが世間のものと違っていて独特なものがあり、そこでたいへんゆったりと奥ゆかしく暮してました。

 

 どこかよそよそしい六条御息所の立ち居振る舞いは、五条の場末の女とは大違いで、さっき見たあばら家のことなども思い出すすべもないことでしょう。

 

 翌朝は少々寝過ごしたのか、既に日が昇った頃に出発しました。

 

 去って行く源氏の君の姿は、まさに人々が夢中になるのも納得できるような堂々たる姿でした。

 

 その時もあの五条の{|しとみ}の門の前を通って行きました。

 

 今までに何度も通った道筋だったけど、ただほんのちょっとした他愛もないあの出来事が気にかかり、どんな人の家なのだろうかと前を通るたびについつい見てしまうのでした。

 

 何日かして惟光がやってきました。

 

 「病人は相変わらず衰弱した状態で、とにかく看病は続けてます。」

 

などと報告したかと思うと、近づいてきてこう言いました。

 

 「仰せになられたとおり、隣のことを知っているものを呼んで聞いたりもしたのですが、なかなかはっきりしたことは言わないのですが、どうやら五月頃から誰にも知られないように通ってくる人があるようなんですけど、その人のことは家の中の人にも知らされてないとうことらしいんです。

 

 時々隣との垣根越しに中を覗き見たりしたのですが、確かに若い女達の影が見えるのです。

 

 入浴の世話をするための(しびら)という前掛けのようなものを形だけ引っ掛けているので、お仕えしている人がいるようです。

 

 昨日、夕陽が射し込んで部屋の中が明るかったので、手紙を書くといってそこにいた人の顔がよく見えました。

 

 何か思い悩んでいるようで、傍にいる女房たちも密かにすすり泣く様がはっきりと見えました。」

 

 源氏の君も含み笑いして、すっかり興味津々のようです。

 

 世間的にはもっと真面目でなければいけない身分なのですが、まだ年も若く女達の間ではアイドル的存在なのですから、全然色気がないのもつまらないしどうしようもなく退屈なもので、惟光のようなぱっとしない男からしても、この程度のことはあっても悪くないんではないかと思っているようです。

 

 「もし何かまたわかることもあるかと、何気ない風を装って手紙などをしてみました。

 

 手馴れた文字ですばやく返歌などしてきました。

 

 なかなか悪くない若い女性がいるようです。」

 

とわかれば、

 

 「もっと言い寄ってみろよ。

 

 このまま何もわからないんじゃ退屈だろう。」

 

 あんな下の下と見下していた住居だけど、そんな中に思いがけず悪くない女が見つかるんじゃないかと、すぐにでもお目にかかりたいといった様子です。

 

   *

 

 さて、みんながちやほやしてくれるというのに、あの空蝉のあまりにひどいつれなさは別の世界の人じゃないかと思い、冷静に考えれば古傷の一つということで済みそうなことだけど、ひどく惨めな敗北に終ってしまったことがいつも気になって、一時も心から離れません。

 

 それに匹敵するくらい気になっているというわけではないのですが、あの雨夜の品定めのあと、いろいろな階級の女に好奇心を掻き立てられ、あれもこれも見境なくという心境なのでしょう。

 

 特に何も考えずに文を待っているかのような様子のもう一人の女も、何か可哀想に思わないわけでもないけど、疎遠になった家に文を書くのも気恥ずかしく、やはりまずは空蝉の方の気持ちを確かめてからと思っていたところ、伊予の介が京に戻ってきました。

 

 真っ先に源氏の所に駆けつけました。

 

 船旅のせいで、やや日焼けし痩せ細った旅姿は、いかにも田舎臭くてどうでも良さそうな感じです。

 

 それでも、この人も高貴な血筋の出で、見かけは年老いてはいても優雅で、動作にもただならぬ品格が漂っています。

 

 任地の伊予の国の土産話をしだすと、ついつい「湯桁はいくつ?」と聞いてみたくなるものの、そんな空気にさせないくらい堂々たる様子に、留守の間に起こした事件をあれこれ思い出してしまい、とても正視できません。

 

 このいかにも謹厳実直な大人を前にして、そんなことを思うなんていかにも馬鹿で、人が知ったら何と思うことか。

 

 まさにこれが、「おろそかにできないような人は他の人と比べてはいけない」だなと左馬の守の教訓を思い出して、相手にされなかったことは悔しいけど、この実直な男のためにはこれでいいのだと思うようにしました。

 

 「娘をさるべき人に預けて、妻を連れてふたたび伊予に赴く。」と聞くと、少なからず気もそぞろになり、せめてそれまでにもう一度何とかならないかと、弟君に相談してはみるものの、何とか取り持ってやろうとは思ってくれても屋敷に忍び込ませるのは簡単ではないし、まして釣り合わない身分の相手となればいまさら見苦しいなと断念しました。

 

 空蝉女の方も、さすがに完全に忘れ去られてしまうというのも貶められたみたいで薄情すぎると思い、挨拶程度の手紙の返事などは親しげな調子で返したりしていたのですが、おざなりな書き方で書いた歌も源氏の君からすれば惹きつけられるような可愛らしさがあって、いかにも気を引くようなことが加えられているかのようで、愛しく思って欲しいと言っているような感じがして、つれなく妬ましいものの忘れることができません。

 

 もう一人のほうは主人との関係が強固でも必ずものにできそうな様子なのを当てにして、誰に預けられようとも特に気にはしてませんでした。

 

 そうこうしているうちに、すっかり秋になりました。

 

 誰のせいでもなく、他ならぬ自ら蒔いた種で心労が重なり心取り乱すこともままあって、その上左大臣の家にはほとんど通わなくなってたので、そっちの方でもかなり不満が積もり積もっているようです。

 

 六条の方にも、よそよそしい様子だったのを何とか言い聞かせて振り向かせたあとも、結局元に戻ったりして堂々巡りで、放っておくわけには行かないのも辛いところです。

 

 確かにまだ片思いだった頃のように一方的に熱を上げることはないにしても、どうしていいのか困惑気味でした。

 

 この六条御息所の女は、物事に対してひどく異常なまでに執着するタイプで、年齢にも似合わず、人の噂では源氏の通わない夜は、何度も目が醒めては心細くなって、いろいろ思い悩んでいるようでした。

 

 霧の立ち込める朝、早く帰るようにひどく急き立てられ、まだ眠たいというのにぶつぶつ言いながら出発しようとした所、御息所に仕える中将の御許(おもと)が、見送ったらどうですかと思ったのか格子を一枚持ち上げて、机帳を引き開けたので、顔を上げて見送ってくれました。

 

 前庭にいろんな花が咲き乱れているのを通りがてらに見て、しばし佇む姿は誰にも真似できません。

 

 南へ延びる廊の方に行く時は、中将の御許(おもと)の君がご一緒です。

 

 季節柄、紫苑の薄紫と緑の色目の薄物を鮮やかに着こなした腰つきには、たおやかな色気を感じさせるものがあります。

 

 源氏の君は後ろを振り返ると、隅っこの部屋の前の高欄(こうらん)のところにこの中将の君の手を引いて座らせました。

 

 中将はうやうやしくふるまうばかりで、肩の辺りで切りそろえられた髪で顔が隠れていて、ちょっと失礼とばかりに覗き込みました。

 

 「咲く花に浮気の噂困るけど

     今日の朝顔折っちゃいたいよ

 

 この私はどうしたらいいのですか。」

 

と言って手を握ったのですが、中将の方も慣れたもので、すぐに、

 

 「朝霧の晴れるの待たず帰るなんて

     花に関心ないようですね」

 

とご主人様の御息所に贈った歌に取り成して返歌しました。

 

 源氏は仕方なく、連れの童、とても可愛らしく美形の童に命じて、わざとらしく{指貫|さしぬき}の裾を露に濡らしながら花壇に入らせて、朝顔(むくげ)を折って持って来させてごまかしたのですが、その様子は絵にでも描いておきたいところです。

 

 源氏の君に関して言えば、大方チラッとみただけの人だって、注意を引かない人はいません。

 

 都の風流を知らない田舎者でも、桜の花の下ではしばし足を止めずにいられなくなるように、源氏の君の発するオーラを見れば、ある程度の身分の者は、自分の無二の娘を女房・女官などにしてお仕えさせることを願い、低い身分でも、そこそこ悪くない妹のいる人は、何とかその周辺にお仕えさせることができないかと思案しない人はいません。

 

 ましてや、その場で適当に言った言葉でも、関係を迫ってくるのを目の当たりにしてしまうと、ちょっとでも分別のある人なら、簡単に返事できるものではありません。

 

 日夜親しくしているわけでもないものを、そんな急にどうすればと思う所でしょう。

 

   *

 

 それはともかくとして、あの惟光に託された例の垣間見の件ですが、かなり詳細なことが明らかになり、その報告がなされました。

 

 「その人物については思い当たる人はおりません。

 

 人が訪れるのをひどく嫌って密かに隠れて住んでいる様子なんですが、退屈しているのか、南の半蔀(はじとみ)という外開きの窓のある女中部屋にやってきては、車の音がするたびに若い女たちが外を覗いたりしているようで、ここの女主人と思われる人が来ている時もあるようです。

 

 顔の方はよく見えなかったけど、なかなか可愛かったですよ。

 

 先日、高貴な人らしく先祓いをしながら通る車があったのを覗き見て、女の童が急いで、

 

 『右近の君、すぐ見に来て下さい。中将殿が今から通ります。』

 

と言えば、すぐにそれらしき女性が出てきて、

 

 『お黙りっ!』

 

と手で制して、

 

 『どうしてわかるのよ、ちょっと見せて。』

 

と言っては、こっそりと女中部屋にやってきました。

 

 仮設の橋のようなもので道を作ってやって来たのです。

 

 あんまり急いでたので、衣の裾を何かに引っ掛けてよろけて倒れて、橋から落っこちたようで、

 

 『ああん、もう、この橋を作ったのは葛城の神なの?

 

 夜しか働かなくて昼間サボってたんでしょう。

 

 もっとしっかりと作っておいてよ。』

 

とぶつくさ言って、外を覗こうと思ってた気持ちもすっかり醒めてしまいました。

 

 『今通ったお方は、直衣(のうし)をお召しになっていて、何人もの従者を従えてました。

 

 あのお方にあのお方も‥‥。』

 

と一人一人、頭の中将の従者や召し連れている童の名前を列挙して、その根拠としてました。」

 

 それを源氏の君は聞いて、

 

 「ちゃんとその車を見てみたいな。」

 

と言って、もしかしたらあの頭の中将が忘れられないと言ってた人では、と思いあたるものがあって、正体を突きとめたくてしょうがないふうなのを惟光が察し、

 

 「私の方の恋文のやり取りなんかもあれから結構進展しまして、家の中もくまなく見せてもらったのですが、ただ、自分達だけしかいないように思わせていて、いろいろ話を聞かせてくれる主人のお付きのうら若い御許(おもと)がいるのですが、話を適当に合わせて騙されたふりをしています。

 

 うまく誤魔化せていると思っているようで、小さい子供がいることをついぽろっと言ってしまったことでも、そうれはこうでしょって言い直したりして、誰も主人がいないような状態を演じています。」

 

などと言っては笑いました。

 

 源氏の君は、

 

 「尼さんのお見舞いに行くついでに垣間見させてくれ。」

 

と言いました。

 

 仮住まいとはいえ、住んでいる家の程度を思えば、これこそが左馬の守が馬鹿にしていた下品の女に違いなく、その中に思いもよらず可愛い感じの人がいたりするようなこともあればいいな、と思ってのことでした。

 

 惟光も、些細なこととはいえ源氏の君の意向にそむかぬ方が良いと思うのと、自分自身の抑えられない助平根性とで、あの手この手といろいろと策略をめぐらしてまわり、密かに源氏の君をもぐりこませることに成功しました。

 

 このあたりのことは長くなるので省略します。

 

 知っている女に会いに来たというわけではないので、源氏の君も特に名乗ることもなく、やむをえないとは言えわざとみすぼらしい格好をしたのですが、さすがに牛車から降ろして歩かせるなんてことは前例のないことで、配慮に欠けると思われてもいけないので、惟光は自分の馬を貸して、自分は走ってお供をしました。

 

 「私の思っている人にこんな他人のお供で歩いてる姿を見られたりしたら、ちょっと辛いですね。」

 

とぼやいてはみるものの、源氏の君の正体がばれないように、いつぞやの夕顔の花の説明をしたお供の者と、面の割れてない童一人だけ連れてやってきました。

 

 もしかしたら例の思い当たるとおりかもしれないと、隣の乳母の家に泊まることもしませんでした。

 

 女も真意がわからず不審に思ったのか、源氏の使いの者に人を後を付けさせて暁の道を探らせ、住所を突き止めようとしたけれども、いつの間にか撒かれてしまい、そんなふうに正体を明かさぬようにしてはいるものの、この女を不憫に思わないわけもなく気になってしょうがないようで、立場をわきまえない軽はずみな行動だと気が咎めるものの、結局頻繁に通ってしまうのです。

 

 恋の道は真面目な人でも狂わせることがあるもので、源氏の君も見た目は平静を装って人から後指差されるようなことはしてこなかったのに、不思議なほどに朝別れるときには昼間会えないというだけで夢うつつの状態で思い悩んでは気も狂いそうで、こんなにまで気に掛けるようなことではないと、必死に気持ちを静めようとしているのですが、その女の様子はと言うと、完全に醒めた様子で柳に風、暖簾に腕押しで真剣さを欠いていて、やたら若作りをしてはいるもののこの種のことには慣れているという感じです。

 

 そんな高貴な身分ではないのにどうしてこう気になるのだろうと、つくづく思うのでした。

 

 いかにもわざとらしく、着ているものもみすぼらしい狩衣にして変装し、顔もほとんどわからないようにして夜も深く人が寝静まるのを待って出入りしていたので、昔話にあるような狐や蛇の変化みたいで、ますます不安に駆られて泣きたくなるのですが、その人の様子は手探りでもわかるので、他ならぬあの好色漢の仕業にちがいないと惟光の大夫を疑いながら、何とか知らん顔してやり過ごそうとするのですが、それでも予想外に頻繁に通ってくるので何が何だかわからず、女の方としても気味悪く不審に思っていたのでした。

 

 源氏の君もこのように安易にゆるゆると逃げ隠れしてたのでは、すぐにどこか他所へ行ってしまうと思われるだろうし、あの女もどう見ても仮住まいのようだから、いつどこかへ引っ越してしまうかもしれないとお思いになり、姿をくらまされてもどうでもいいと思えるのでしたら、その程度の遊びだったということですむのですが、それですむとも思えず、人目を気にして通えなかった夜などはとても耐えられず、苦しくなるほど恋焦がれていましたので、これで誰に断るでもなく二条院に住まわせて、それがばれてとんでもないことになったとしても、それが自分の気持ちなので人にわかってもらえなくてかまわないと、それほどにまでこの恋は深いのだと思いつめてました。

 

 「まあまあ、もっとくつろげる場所で落ち着いて話を聞いてください。」

 

などと語りかければ、

 

 「でも、あっやしー。

 

 そんなこと言って、下心のないお誘いなんて、何か恐いなー。」

 

といかにも子供っぽく言えば、

 

 「だよなー。」

 

とにっこり笑って、

 

 「だが狐はどっちかな。

 

 今はただ化かされて下さい。」

 

と体を寄せて囁けば女もぴったり寄り添い、やっぱりそういうことかと思ったようでした。

 

 前例のない不釣合いなことだとは思っても、ここまで一途に突き動かされた恋心には、どうしようもなく愛らしい人に見えていて、それでもあの頭の中将が言ってた常夏の女ではないかという疑いは残っていて、中将の語っていたその女の性格をすぐに思い出したのですが、人目を忍ぶ事情があるからこそと思うとあながち問いただすわけにもいきません。

 

 思い当たるような急に背を向けて姿をくらますような感じが少しもしないので、滅多に通わなくなったりすれば心変わりすることもあるだろうけど、気持ちの赴くままに多少気持ちが揺れる程度なら、かえって可愛いものだとすら思えるのでした。

 

 八月の十五夜、一点の曇りもない月の光は隙間だらけの板ぶき屋根から至る所漏れていて、普段見ないような住居の様子も珍しくて、暁近くになると隣近所の家から、怪しげな下層階級の男達の声は、目が醒めたところなのか、

 

 「おーーー、さぶいさぶい‥‥。」

 

 「いやー、今年は農業収入にもあまり頼れないし、田舎への行商もできそうにもないから、かなり大変だなー。

 

 北隣さん、聞いてくれやー。」

 

などという会話も聞こえてきます。

 

 人それぞれのごくささやかな稼業のために起き出して、ざわめき騒がしくなってゆく物音が間近でするのを、その女はひどく恥ずかしがってました。

 

 見栄を張りたがる女なら、消えてなくなりたくなるような貧民窟なのかもしれません。

 

 それなのに、何ごともないかのように、辛いことも憂鬱なことも傍から見て痛々しいことも気にするそぶりも見せず、人に接する態度はあくまで大変上品そうで天真爛漫な子供のようで、これ以上ないくらいの混沌とした隣近所の荒々しさをまるで意に介さない様子なので、なまじ顔から火の出るように恥ずかしがるよりは罪を免れているように見えます。

 

 轟々と鳴る雷よりもおどろおどろしく踏み轟かす精米の(から)(うす)の音も、枕元から響いてくるようです。

 

 「わあっ、これは耳が痛くなりそうだ。」

 

と源氏の君には何の音か知るよしもなく、ただよくわからない不快な物音にしか聞こえないようでした。

 

 どうでもいいことばかりたくさんあります。

 

 白妙の衣を打つという砧の音も、あちこちから弱々しく聞こえてきてあたりに充満し、空飛ぶ雁の声と一つになって、聞いてられないほど悲しげなものばかりです。

 

 それは端っこの部屋でして、遣り戸を引き上げて、一緒に外を見ました。

 

 庭はそれほどでもありませんが、日に焼けて白んだ呉竹でも、植え込みに降りる露はどこでも同じようにきらめいてました。

 

 虫の声は騒々しいくらいで、屋内に入り込んだコオロギですらいつも遠くから聞こえてくるのが普通という生活をしている耳には、耳元にいるかのように鳴き乱れるのをずいぶんいつもと勝手が違うと思うものの、その女のことを思う気持ちで一杯だと、どんな難点も許されてしまうのでしょう。

 

 貴族のような(ひとえ)を重ねて着るのではなく、裏地のある白い(あわせ)を着て、やわらかい薄紫の(うわ)()を重ねて、華やかとはいえない姿はとても弱々しく、触れれば消えてしまいそうな感じで、これといってぬきんでた所はないけれども、細身でしなやかで、ふと一言二言言う声に「何か気の毒だな」と、ただ弱々しく見えます。

 

 もう少し色気を出してくれたならと思いながらも、もっとお近づきになりたいと思って、

 

 「さあ、この辺の近所で、誰に気兼ねもせずに朝を迎えましょう。

 

 ここで会うだけでは、いろいろ差し障りもありましょう。」

 

 「どうしたの、急に?」

 

とまったく無表情に言うだけでした。

 

 この世だけでなく来世まで一緒にいようと約束すると、急に驚くほど打ち解けたような雰囲気に変って、さっきまでの恋の達人とも思えないほどなので、源氏の君は人が何を思うかもかまわずに右近を呼び出して、随身(惟光)も呼んで車を中に引き入れさせました。

 

 女の方のお付きの人たちも、源氏の気持ちがいいかげんなものではないのを知ると、何だかよくわからないままに付いて行くことを申し出ました。

 

 明け方も近くなりました。

 

 鶏の声のようなものは聞こえず、吉野の修験者でしょうか、ただいかにも年取った声で額を地面に擦り付けてお祈りするのが聞こえてきます。

 

 老いた体で五体投地を繰り返す様子は見るに耐え難く、とても気の毒に思えて、

 

 「朝の露と同じようなはかなきこの世に、一体何が欲しくて祈っているのかい?」

 

と尋ねると、

 

 「弥勒様の御到来。」

 

と言って拝み続けました。

 

 「ほら、お聞きなさい。

 

 この世だけとは思ってません。」

 

と感動して、

 

 「()()(そく)の弥勒の道にあやかって

     来世の約束守っておくれ」

 

 玄宗皇帝と楊貴妃の長生殿の喩えは不吉だから「比翼の鳥のように羽を並べて」とは言わずに、弥勒の世までとしました。

 

 五十六億七千万年先まで約束だなんて、ずいぶん大きく出たものです。

 

 「前の世の約束を知る身がつらく

     来世までとは信じられない」

 

こんな返歌を詠んでいるあたり、女の方はというと、何とも歯切れの悪い所です。

 

 月もまだなかなか沈まないというのに突然家から連れ出されことになって、女はまだ決心つきかねているので、あれこれ説得しようとしているうちに急に月が雲隠れして、明けてゆく空は見事なまでに美しい。

 

 明るくなって人に見られたりする前には、当然急いで出発しなければならないため、女を軽くひょいと抱えて車に乗せると、右近も乗り込んできました。

 

 そのあたりの近くにある何とか院とやらに到着しまして、管理人を呼び出すのですが、荒れ果てた門にはしのぶ草が茂り、見上げれば例えようもないほど木が鬱蒼と茂ってます。

 

 霧も深く、露がびっしり降りていて、簾を上げるだけでも袖がびしょびしょになるほどでした。

 

 「まだこうしたことには慣れてないんで、いろいろ気を遣うもんなんだね。

 

 昔から人はこんなに迷ったか

    初体験の東雲の道

 

 あなたは慣れてらっしゃるのでは。」

 

と源氏の君が言うと、女は恥ずかしそうに、

 

 「よく知らない山に沈んでゆく月は

     わけもわからず消えてゆくだけ

 

 心細いの‥‥。」

 

 と言うが、ここが何だか恐くてぞっとするような所に感じられるのは、あの小さな家に大勢で暮していたからかなと、面白いなと思いました。

 

 車を中に入れさせて、奇麗に準備された立派な寝殿造の西の対の居住空間の高欄に車の引く所を掛けて、真直ぐに立たせました。

 

 右近は華やいだ気分で、昔のことなども密かに思い出してました。

 

 管理人がひどく恐縮して飛び回っている様子を見て、事態が飲み込めたようです。

 

 車から降りたのは、ほのかにあたりの様子がわかる頃だったでしょうか。

 

 仮の宿ではあるけど、清潔に整えられてました。

 

 「お伴に誰もお付けにならないなんて、何とも気の毒なことです。」

 

と言っているのは懇意にしている下家司(しもげいし)という一族の所領など不動産を管理する者で官位の低いもので、あの左大臣家にも使えている者なので、源氏の君の所に現われて、

 

 「しかるべき人を招集すべきではないでしょうか。」

 

などと主張するのですが、

 

 「ここは特別誰も来ないような隠れ家にするために求めたもので、決して誰にも言ってはなりません。」

 

と口止めしました。

 

 お粥などを急いで届けさせたけど、打ち合わせの不十分で受け取る配膳係が到着しません。

 

 従者も連れずに外泊するのは何分経験のないことでしたので、(にお)(どり)(おき)長川(なががわ)の契りは絶えたとしてもこの契りは絶えないとばかりに、することは一つしかありません。

 

   *

 

 日が高くなった頃、目を覚まし、格子を自分の手で引き上げて開けました。

 

 庭はすっかり荒れ果てて人の気配はなく、あたりの広い景色をざっと見渡したところ、木立は年月を経て不気味なほどでした。

 

 近くにある草木なども特に見るべきものはなく、どれもこれも秋の野原に普通に生えているもので、池も草に埋もれてどこか人を寄せ付けないような恐ろしげな所となってました。

 

 別棟の方に詰所があって、管理人が住んでいるようなのですが、ここからは離れてます。

 

 「人を寄せ付けないような恐ろしげな所みたいですね。

 

 だがこの私を見たなら鬼だって許してくれるでしょう。」

 

となだめます。

 

 そうは言いながらも扇で顔を隠して魔除けにしてたりするのですが、女がそれを嫌そうに思っているようなので、確かにわずかな隔たりであってもこういう状況には相応しくないと思いなおし、

 

 「夕露に紐解く花は男根(たま)(ぼこ)

     導きと見た、何ていう縁だ

 

 露の光はいかがですか。」

 

と歌って流し目を送ると、

 

 「輝くと見た夕顔の上の露

     黄昏時の錯覚でしょう」

 

とさらっとかわします。

 

 面白いと思ったようです。

 

 源氏の君のいかにもお気楽にふるまう様は異常とも言え、こういった場には恐ろしく不釣合いにすら思えます。

 

 「今までずっとお互い名前を隠してきたけど、ここで名を明かそうかと思う。

 

 あなたも今ここで名乗っていただきたい。

 

 なんか不安でしょうがない。」

 

とお願いしては見るものの、

 

 「さすらいの海女(あま)|の身ですから。」

 

とあくまで隠し通そうという様子でべったりと寄り添ってました。

 

 「そうだな、この私は藻に住むワレカラのようなもので、我から蒔いた種だったな。」

 

などと恨み言を言う一方で、他愛のないお喋りに興じながら時は過ぎていきました。

 

 惟光がようやく源氏のいるところを探し当てて、酒のつまみのナッツ類を持ってきました。

 

 右近が何を言うかがさすがに辛く気がかりで、近くに控えているわけにも行きません。

 

 源氏の君がこんなにまで捜し歩いたりしておかしなことだが、それだけの人だったのかな、と思いめぐらしてはみるものの、自分がさっさとものにしてしまえばよかった所を源氏の君に譲ってしまったのはちょっと人が良すぎたかな、と我ながらあきれる所でした。

 

 女の方は、いつもとはまったく違う静かな夕暮れの空を眺めて、奥の方は暗くて薄気味悪いと思ってか、端っこの簾を上げて寄り添って寝ました。

 

 夕暮れの光に照らされたお互いの姿を見合っては、女もこうなってしまったことを思っても見なかったことでなんか怪しいなと思いながらも、これまでの幾多の悲しみをしばし忘れてほんの少し心を開いてゆく様子がいじらしくもあります。

 

 ずっと源氏の君の横に寄り添って過ごしながら、何かをとても恐れているようにしているのが、幼げで痛々しいかぎりです。

 

 源氏の君は格子をあわただしく降ろし、大殿油(おおとなぶら)を灯し、

 

 「私のことはすっかり洗いざらいお話しました次第で、それでもなお、あなたが心のうちにしまいこんだものをお話にならないのは残念です。」

 

と不満をもらします。

 

 父上は自分のことを探してらっしゃるに違いないが、どこにお尋ねになっているのだろうかと気にはなるし、その一方では不埒にも、六条御息所がどんなにやきもきしていることか、恨まれてしまうのは苦しいがしょうがない、とそっち方面のことはとにかく気がかりでした。

 

 そんなことなど知らぬげな目の前の人を哀れに思う一方で、御息所のあまりに心深く思いつめて、見ていて痛々しいありさまを少しなくしてやらなくてはと、ついつい比べてしまうのでした。

 

 宵も過ぎた頃、、少しうとうとしていると、源氏の君の枕元に大変美しい女性がいて、

 

 「私がこんなにお慕い申しているというのに、私のもとに来ようともせず、こんなパッとしない女を引っ張ってきてはさも大切そうに扱って、ほんと目障りで癪にさわること。」

 

と言って、この隣で寝ている人を揺り起こそうとするのが見えました。

 

 怪異に襲われたような感覚でびっくりすると、その途端に火も消えてしまいました。

 

 尋常ではないと思ったので太刀を引き抜いて枕元に置くと、右近を起こしました。

 

 右近もまた大変おびえている様子で、源氏の元に身を寄せました。

 

 「渡殿にいる管理人を起こして『紙燭をもってきてくれ』と言え。」

 

と命じれば、

 

 「どうやって行けばいいのよ、真っ暗なのに。」

 

と答えるので、

 

 「なんだよ、ガキだな。」

 

と吹いて、手を叩いて合図すれば、その音がこだまして何とも不気味です。

 

 誰もそれを聞いてやってこないので、夕顔の女君はぶるぶる震えながら取り乱した様子で、どうすればいいのと思うばかりです。

 

 汗がたらたら流れ落ちて、心ここにあらずです。

 

 「恐がりでパニックを起こしやすい性格だから、どんな風に思っていることか」

 

と右近も心配しています。

 

 本当にか弱いんだな、そういえば昼間もどこか焦点が定まらず空を見ていて気の毒な感じだったなと思って、

 

 「俺が人を呼んでくる。

 

 手を叩いてもこだまが答えるだけで、うざい。

 

 ちょっとこっちに。」

 

と言って右近を女君の方へ引き寄せて西側の扉の方に行き、戸を押し開けたところ、渡殿の火も消えてました。

 

 風が時折少し吹いていて人は少なく、使えている人は皆寝てました。

 

 あの下家司(しもげいし)の親族で下家司に仕えている若い男、源氏の君に仕えている童と随身だけがそこにいました。

 

 源氏の君が呼び寄せると、返事して起き上がったところで、

 

 「紙燭も持って来い。

 

 随身には弓の弦を弾いて音を出し続けるように言ってくれ。

 

 人の気配がないからといって油断するな。

 

 惟光の朝臣が来てたんじゃなかったか。」

 

と尋ねれば、

 

 「来てたんですが、特に何もおっしゃってません。

 

 朝方に迎えに来るというようなことを言ってまして、お帰りになりました。」

 

とのことです。

 

 そう返事をしたのは滝口の武者だったので、弓の弦を手馴れたように打ち鳴らし、「火の用心」などと言いながら、管理人の部屋の方に行ってしまいました。

 

 内裏のことを思い出して、名対面(なだいめん)(宿直者の点呼の儀式)は終ったのだろうか、滝口の武者の弓を鳴らして宿直室に戻って行くのはこんな時刻なのだろうな、と思いはせる程には、まだそんなに夜も更けていません。

 

 西の対の部屋に戻って、暗闇の中の様子を探ると、女君はさっきのまま横になっていて、右近は傍らにうつ伏せになってました。

 

 「これは一体何だ。

 

 狂ったようなおびえ方だ。

 

 荒れ果てた所には狐などの類のものが人を脅かそうとして、何やら恐がらせようとしてるのだろう。

 

 私がいるからには、そんなものを恐がることはない。」

 

と言って引き起こしました。

 

 「とにかくひどく気分が悪いので、こうしてうつ伏せになっているだけです。

 

 このお方のほうこそ大変なことになってます。」

 

と言えば、

 

 「そうだな。

 

 何でこんなことに。」

 

と言って、手探りで様子を見ると、息もしてません。

 

 引き動かしてみるものの、力なく意識もない様子で、ひどく精神的に未熟な人だったため憑物に魂を奪われたのだろうと思い、どうしていいのかわからない様子です。

 

 誰かが紙燭持ってきました。

 

 右近も動ける状態ではないので、近くの几帳を引き寄せて、

 

 「こっちまで持って来い。」

 

と命じます。

 

 寝室に立ち入るのは礼に反することなので、源氏のもとに近づくこともできず、遠慮からか敷居をまたぐことすらしません。

 

 「礼儀など気にしないで、とにかく持って来い。」

 

と言って、近くに来させて部屋の中を見れば、たださっきの枕元に夢に見たような風貌の女は、幻のようにふっと消えました。

 

 こんなことは昔話かなにかで聞いたことはあるけど、これは本当に不可解でおぞましいことなのですが、それでもこの人がどうなってしまのか胸騒ぎがして、我が身も返り見ず女君の上に臥し添って、「おい!」と起こそうとするけど、体は冷たくなり息は既に絶えてました。

 

 「どうすればいいんだ」と言っても、聞けるような、頼りになる人はいません。

 

 法師などいれば、こんな時は魔物を追っ払ってくれるのかもしれませんが。

 

 源氏の君も、こんなふうに強がってはみても、まだ若くてどうしていいかわからず、すでに取り返しのつかないことになってしまったのを見てどうすることもできず、ただ抱きしめて、

 

 「生き返ってくれよ。

 

 俺をそんなひどい目に合わせないでくれ!」

 

と叫んでみても、既に体温はなく、魂の気配も消えうせていきます。

 

 右近の、それまでの気味悪いという感覚がすっかり吹っ飛んで狂ったように泣きじゃくる姿は、とても見てられません。

 

 その昔、藤原(ふじわらの)(ただ)(ひら)が紫宸殿に現われた鬼に対して、あくまで毅然とした態度で追いはらったことを思い出し、虚勢を張って、

 

 「まさかお亡くなりになることはありますまい。

 

 夜に大声を出せば皆びっくりする。

 

 静まれ!」

 

と泣くのをやめさせようとはするものの、自分もまたパニックを起こして呆然とするのみです。

 

 さっき紙燭持ってきた男を呼び寄せ、

 

 「ここに信じられないようなことだが、魔物に襲われて魂の抜けた人がいるんだ。

 

 すぐに惟光の朝臣のいる所に行って、急いでここへ来るように言うように伝えてくれ。

 

 惟光の兄の阿闍(あざ)()がそこにいるんだったら、内密にここに来るように言え。

 

 例の尼君に何か聞かれてもびっくりしそうなことは言うな。

 

 こんな夜中に歩き回ることを許すような人ではない。」

 

 などと、しっかり指示を出しているようですが、胸は詰まりそうで、あの人を空しく死なせてしまうなんてあってはならないと思うものの、周囲の雰囲気の禍々しさは例えようもありません。

 

 夜中も過ぎた頃でしょうか、風もやや強くなってきたのは。

 

 まして、松風の音がいかにも生い茂っているように聞こえて、聞いたこともないような鳥のかすれ声で鳴くと、これがフクロウなのかと源氏の君は思うのです。

 

 はっとして辺りを見回して思うに、どこもかしこも人の気配はなくてよそよそしく、人声もしません。

 

 「何でまたこんな何もない宿を確保しちゃったのかな」と後悔してもどうにもなりません。

 

 右近は呆然として源氏の君にひたと寄り添い、

 

 「これじゃぶるぶる震えて死んでしまう。

 

 この人もどうなっちゃうんだ」

 

と上の空で抱き寄せました。

 

 「俺一人が正気でもどうにもならないのか。」

 

 火はほのかに瞬いて、母屋と(ひさし)を隔てる屏風の上の、いたるところ何かが潜んでいるような感じで、今にも物の怪がひしひしと足音を踏み鳴らして、背後に迫っているような気がしてなりません。

 

 「惟光う、早く来てくれよ。」

 

と思っても、いつもあちこちふらついてるから、探す人もあちこち訪ね歩いていて、世が明けるまでの長さはあたかも千の夜を過ごすかのようです。

 

 ようやくはるか遠くの鶏の声が聞こえてくると、

 

 「何の因果で、こんな命がけの危険な目にあわなきゃいけないんだ。

 

 我ながら、こんなことで、抱いてはいけない分不相応の恋の報いとして、過去にも未来にも悪い見本にされてしまうのではないのか。

 

 隠そうにも、きっと世間の噂になって、宮中に知れ渡るだけでなく、世間の人が思っていることを京童たちがあれこれ面白おかしく言い立てるにちがいない。

 

 そんなこんなで笑いものにされちゃうんだろうな。」

 

と、取りとめもなく思うのでした。

 

 やっと惟光の朝臣が到着しました。

 

 夜中でも明け方でも源氏の君の命に従ってきたものの、今夜に限って近くにいなくて、呼んでも来なかったことにいらついてはいたものの、呼び入れて言おうとしたことももはや手遅れで、結局何も言いませんでした。

 

 右近は惟光の大夫の声を聞くと、初めて会った時のことをふと思い出して涙ぐむと、源氏の君も涙をこらえきれずに、さっきまで自分一人強気に平静を装っていたけれども、惟光が来たのに一息つくと、悲しい出来事を今さら思い出したとばかりに、見るからに痛々しく止めどもなく泣き崩れました。

 

 ほんの少し気持ちが静まると、

 

 「ここにとんでもない不可解な事件が起きて、悲惨という言葉では足りないくらいなんだ。

 

 こういう急を要する時には、お経を唱えるのが一番なので、それをしてもらったり、祈願などもしてもらおうと阿闍梨をあれするように頼んだのだが‥‥。」

 

と問いただすのですが、

 

 「昨日比叡山に戻られました。

 

 とにかく、何とも聞いたこともないようなことも起こるものですね。

 

 かねてから異常な心理になるようなことがあったのでしょうか。」

 

 「そんなことはなかった。」

 

と言って泣く様子は、子供じみていて何か可愛くもあり、見ている方も大変悲しくなり、惟光自身もまた大声で泣くのでした。

 

 そうは言っても、年の功で世の中の酸いも甘いも噛み分けた人こそ、何かあった時には頼もしいのですが、どっちもどっちの若者同士でどうしようもないのですが、

 

 「この屋敷の管理人などに知らせるのは、ちとまずいのでは。

 

 この人だけなら理解を示してくれるかもしれないが、どうしたって親族や何かにぽろっと漏らしてしまうこともあるでしょう。

 

 まず、この屋敷を出ましょう。」

 

と惟光は進言します。

 

 「でも、ここより人目につかない所なんてあるのか。」

 

 「なるほど、そう思うのもごもっとも。

 

 あの夕顔の君の家は、女房などが悲しみに耐えずに我を忘れて泣き騒いだりすると、隣近所皆すぐそばだから、苦情を言う人もたくさんいそうで、自然と何が起きたのか知られてしまうでしょうし、山寺ならまだこうしたことも、他の仏事なんかにまぎれてうまくごまかせるのでは」

 

とあれこれ考えて、

 

 「昔から知っている女房が尼さんをやっている東山の辺りに移すのがいいかと思います。

 

 この惟光が父の朝臣の乳母だった腰の曲がった老婆でそこに住んでます。

 

 あたりに人がたくさん住んではいるものの、大変閑静な所です。」

 

と言うので、世が白む頃、密かに車を呼び入れました。

 

 源氏の君はこの愛しき人を抱き上げることもできず、惟光が筵にくるんで車に乗せました。

 

 とても小さく、汚らわしさなど微塵もなく、可愛らしい死に顔です。

 

 きちっとくるんでなくて髪の毛がこぼれ出ると、目の前が真っ暗になり、直視もできないくらい悲しくなり、葬儀を最後まで見届けたいと願うのですが、

 

 「早く馬に乗って二条院へ帰った方がいいですよ。

 

 世間の人が目を覚まし、騒がしくなる前に。」

 

 そう言うと、右近を亡骸の脇の乗せて、源氏の君に馬を預けて、自分は袴の裾をくくって引き上げ、歩いて出発しました。

 

 それはどう考えても普通ではない変なお別れの仕方ですが、源氏の君が精神的にまいっていることを思えば、自分の悲しみも返り見ずに行くしかなく、それほど源氏はすっかり放心状態で、ここはどこ、私は誰というような様子で二条院に着きました。

 

 家の人たちは、

 

 「どこへ行ってたんですか。

 

 お体の具合の悪いようですが。」

 

などと言うのですが、(ちょう)(だい)(寝所)の裏に入って胸を押さえながらあらためて思うに、

 

 「こんな苦しいのに何で一緒に行かなかったのだろうか。

 

 生き返ったらどう思うだろうか。

 

 見捨てられて離れ離れになったと、辛い思いをするのではないか。」

 

とありもしないことを考えては、胸に突き上げてくるものを感じました。

 

 頭痛がして、体にも熱があるような感じがしてひどく苦しく思い悩めば、

 

 「こんなにあっけないなんて、俺も同じようになるのかな。」

 

という思いにもかられます。

 

 日が高く昇っても起きてこないので、家の人たちは心配してお粥などを勧めるのですが、苦しくてひどく心細くなっている所に、内裏からの使者が来ました。

 

 昨日も御門がお探しになって、見つからなかったのでご不満の様子でした。

 

 左大臣の息子達も来てましたが、頭の中将だけを、

 

 「立ったままでいいから、こちらに入りなさい。」

 

と言って招き入れ、御簾の内側で事情を説明しました。

 

 「俺の乳母だった人がこの五月の頃からか重い病気になって、それで出家して頭を丸め、戒律に従っていたら、その効果か治っていたんだけど、この頃また悪化して衰弱してたんだ。

 

 今一度会いに来てほしいと言うので、幼い頃から慣れ親しんできた人だけに今わの際に辛い思いをさせてはいけないと思って見舞いに行くと、その家の下人が病気になり、急に家から出す間もなく亡くなってしまったので、その穢れが恐くてすぐに運び出すのも憚られ、夕暮れを待ってやっと運び出した所だというのを聞いてしまったので、神事が行なわれる時期としては何とも不都合なのでご遠慮して内裏へは行かなかったんだ。

 

 そしたら今日の明け方から風邪を引いたみたいで、頭ががんがん痛んで苦しくて、大変失礼なんだけど、こうして立ったまま聞いてもらうことになったんだ。」

 

とのことです。

 

 中将は、

 

 「だったら、御門にはそういうふうに言っといてあげるよ。

 

 昨日の夜も管弦の遊びに、畏れ多くも源氏の君をお探しになって、気分を害されていたんだ。」

 

と言うと、立ち去り際振り返って、

 

 「一体どんな穢れをもらっちまったんだ。

 

 今言ったこと、本当とは思えないな。」

 

と言うと、胸にずきっと来て、

 

 「そんなに細かくは言わなくていいから、ただ思いがけず穢れに触れてしまったというようなことを御門に報告しておいてくれ。

 

 面倒くさいことになる。」

 

と何でもないかのように言うけど、心の中では言いようもない悲しい出来事を思い出し、憂鬱になるばかりで、目を合わそうともしません。

 

 中将は弟の蔵人の弁に命じて、こうしたことを真面目に御門に報告させました。

 

 左大臣の家にも、こんなことがあったので行くことができない、という旨のことを人に伝えさせました。

 

 日暮れになって惟光がやってきました。

 

 穢れがあると頭の中将に語ったようなことを言って、来た人たちは皆立ったまま話を聞いただけで帰って行くので、そんなに人がいるわけでもありません。

 

 惟光を近くに呼んで、

 

 「どうだった。やっぱりだめだったか。」

 

 と言っては、袖に顔を埋めて泣きました。

 

 惟光も泣きながら、

 

 「ご臨終ですと申し上げましょう。

 

 いつまでもずっと隠していてもどうしようもないので、明日なら日柄もよろしく、葬儀のことは年取った大変偉いお坊さんを知っているので、相談しておきました。」

 

とのことです。

 

 「一緒にいた女はどうした。」

 

と聞けば、

 

 「とても生きていけないんではないかという感じです。

 

 後を追わなくてはと錯乱して、今朝は谷にでも飛び込むのではないかという様子でした。

 

 家のみんなにも知らせなければ、と言うのですが、落ち着いて状況を考えてくれとだけ、一応言っておきました。」

 

と、語って聞かされるのですが、とても聞いていられなくなり、

 

 「俺だって憂鬱で、どうしていいのかわからないんだ。」

 

 と言いました。

 

 「一体何をこれ以上お悩みになることがありましょうか。

 

 すべては成るべくして成ったことなのです。

 

 他人にばれてはいけないと思うのであれば、この惟光めが手足となってすべて何とかいたします。」

 

などと慰めます。

 

 「そうだな。

 

 みんなそう思うんだけど、浮ついた心のせいで人を死なせてしまったかのように非難されるのが一番辛い。

 

 君の妹の少将の命婦などにも言わないでくれ。

 

 まして尼君なんかにこんなこと知られて説教された日には、恥ずかしくってしょうがない。」

 

と口止めをしました。

 

 「他の坊主どもにも、みんな別のことをいい含めてある。」

 

と聞くと安心しました。

 

 その様子を耳にした女房などは、あやしい、何だろう、穢れがあるからとか言って内裏にも登らないし、その上こんなひそひそ話をしては泣いたりしてと、うすうす疑ってます。

 

 「手厚くやってくれ」

 

と葬儀の作法のことを言っても、

 

 「だからといって目立ったりしてもいけません。」

 

と言って立ち上がるが、それが悲しくてしょうがないので、

 

 「意味ないと思うかもしれないけど、もう一度だけでもあの亡骸を見ないことには気持ちがおさまらないので、馬で何とかしたい。」

 

と言うのを、何やらやっかいなことになったなとは思うものの、

 

 「そうお思いでしたらどういたしましょうか。

 

 早いところ行って、夜更けにならないうちに帰るといいでしょう。」

 

と答えれば、この頃のお忍びの時のために用意していた狩の装束に着がえて出発しました。

 

 目の前が真っ暗になるような心地で、目を覆いたくなるような出来事に耐え難ければ、こんな怪しげな所に行くにしても、あの恐ろしい目にあってすっかり懲りたことを思い出しては行くべきかどうか悩むけれど、それでも悲しさのやり場がなくて、何とか今のうちに亡骸を見ておかなくては、たとえ生まれ変わっても二度と見ることができないのではないか、と思ってぐっとこらえて、例によって惟光の大夫の随身を引き連れての出発です。

 

 道は果てしなく遠く感じられます。

 

 十七日(たちまち)の月の光が射してきて川原の辺りに、先導する者の持つ松明もほのかに灯り、東山の麓の鳥野辺の方の薄気味の悪い景色を見やるにも何も感じることなく、ただ混乱してわけもわからないまま到着しました。

 

 付近も荒涼としている上に、板葺き屋根の家に隣にお堂を立てて仏事を行なっている尼の家はとても悲しげでした。

 

 燈明の灯りがほのかに透けて見えます。

 

 板屋では女一人なく声だけがして、その外ではお坊さんがニ、三人、雑談の合間の無言念仏をしてました。

 

 たくさんあるお寺の初夜のお勤めも終り、しーんと静まり返ってます。

 

 清水の方だけが灯りがたくさん灯り、人がたくさんいるようです。

 

 この尼君の息子の大徳はよく通る声で経を読み上げると、涙も枯れ果てたかのようです。

 

 中に入ると、右近は火を横にどけて屏風の向こうで臥せってました。

 

 どんなに気落ちしていることかと思いました。

 

 亡骸の方は恐い顔をしているわけでもなく、むしろ可愛らしくもあり、生前とほとんど変る所がありません。

 

 手を取り、

 

 「俺にもう一度だけ声を聞かせてくれ。

 

 どんな前世の因縁か知らないが、ほんのちょっとの間でも心の限り愛してたと言うのに、こんな俺を捨ててこんなに悲しませるなんて、ひどすぎるよ。」

 

と声を限りに泣いて、いつ泣き止むとも知れません。

 

 大徳たちも誰かは知らないけど、不思議なことだと思って皆涙をこぼしました。

 

 右近に、

 

 「さあ、二条院へ。」

 

と言っても、

 

 「今まで幼い頃から片時も離れることなく親しんできた人と急にお別れとなって、一体どこに帰るというのですか。

 

 どうしてこんなことになったのか、人に聞かれても何と言えばいいのでしょう。

 

 悲しいというだけでなく、人にいろんなことを言われて騒がれると思うとどうしようもなく辛い。」

 

と言って泣きじゃくり、

 

 「煙と一緒に後を追います。」

 

とまで言います。

 

 「確かにその通りだけど、この世というものはそういうものだ。

 

 別れというものが悲しくないはずはない。

 

 死んだ者も残された者も、どのみちいつかは命には限りがある。

 

 そう思って気持ちを静めて、俺に任せてくれ。」

 

と言って慰めてはみるものの、

 

 「そういう俺自身も、息が止まりそうな気持ちなんだ。」

 

などと言うあたり、任せられるような様子ではありません。

 

 惟光が、

 

 「夜がもうすぐ明けてしまいます。

 

 早く帰りましょう。」

 

と言うのを聞いて、何度も何度も振り返りながら、胸はさらに苦しく息ができないくらいです。

 

 道は露の匂いに包まれ、さらに朝霧まで立ち込めて、どこか知らない所に迷い込んでしまったような気持ちになります。

 

 生前そのままに横たわっていた姿、寝る時に掛けてやった自分の赤い夜着を着たままだったことなど、一体どんな気持ちであの一夜をともにしたのかと、道すがら考え事をしてました。

 

 馬にもしっかりと乗ってられない状態でしたので、惟光が横で支えていたところ、加茂河原の堤のあたりで馬から滑り落ちて、どうしようもなく頭が混乱して、

 

 「こんな旅路の空に放り出されてしまったみたいだな。

 

 二条院には永久に帰れないような気がする。」

 

と言うので、惟光も動揺して、俺がもっとしっかりしていれば、何を言われようともこんな道中に引っ張り込むようなことはなかったと思うと、どうにも心が落ち着かず、川の水で手を洗い、清水の観音様にお祈りをしてもなすすべもなく思い悩みます。

 

 源氏の君も不本意ながらすがる思いで心の内で仏様にお祈りして、その功徳があったのか二条院に帰り着きました。

 

 こんな夜更けの外出はいかにも怪しげで、女房達は、

 

 「みっともないったらありません。

 

 この頃いつもより落ち着きがなく、たびたびこっそり外出したりしてたけど、昨日は何やら思いつめたような様子だったし、どうしてあんなふうにふらふらほっつきまわってるのか、とぼやきあっていました。

 

 実際、寝込んだままひどく痛々しく苦しがり、二、三日すると目に見えて衰弱してゆきました。

 

 禁中にも報告し、悩みは尽きません。

 

 ご祈祷に来た人たちは次から次へと皆それぞれに大声でわめきたてます。

 

 陰陽師を呼んでは祭祓をさせ、密教僧を呼んでは修法をさせ、列挙すればきりがありません。

 

 この世に類を見ない神々しい美男子だけに薄命なのではないのかと、下々のものの間でも大騒ぎです。

 

 苦しんでいる間にも、あの右近を二条院に呼んで、近くの控え室を与えて世話をさせました。

 

 惟光も動揺は隠せないけど何とか気持ちを静めて、右近のことをどうすることもできないなと思いつつも、支えになり、助力しながら側に控えました。

 

 源氏の君が多少病状の良い時は、右近を呼び寄せて、お使いをさせたりすれば、ほどなく二条院での生活にも馴染みました。

 

 ふっくらとして色黒で美人とは言い難いけど、周囲の女房にも見劣りのしない若さがあります。

 

 「不思議な前世の約束に引き寄せられているのか、俺ももうこの世にはいられないのだろう。

 

 長年の仕えてきた人を失って、心細く思っているそのせめてもの慰めとして、このまま生き延びたなら、いろいろと親代わりになりたいと思ったのだがな。

 

 もうすぐまたあの人と一緒にならなくてはならないのが残念だ。」

 

と人に聞かれないように言うと、力なく泣き、右近も主人を失った悲しみをここで言ってもしょうがないので、源氏の君まで失ったらどうしようもなく悲しいというようなことを申し上げました。

 

 院に仕える人は足が地に着かないくらい途方にくれてます。

 

 内裏からの使いの者は、雨脚よりも絶え間なく訪れます。

 

 御門がたいそうご心配なさってるのを聞くと、すっかり恐縮して何とか強がって見せます。

 

 左大臣も必死に方々駆けずり回り、毎日のように通ってきては、医療・祈祷などいろいろなことを施したおかげか、二十日あまりして、他の病気を併発することもなく回復したように見えました。

 

 死穢のお籠りの明ける日もちょうどこの満月の夜で、すっかり御門に心配をかけてしまったのが心苦しくて、内裏の自分の宿直所の桐壺に顔を出したりします。

 

 左大臣は自分の車で源氏の君を迎えに行き、物忌みや吉凶などいろいろ言っては、うざいくらいに気持ちを引き締めようとします。

 

 しばらくは、意に反して別の世界に蘇生してしまったかのような感じです。

 

 九月二十日頃だったか、病気はすっかり良くなり、顔はすっかり痩せこけてしまったけど、かえってしっとりと落ち着いた色気を放ち、物思いに耽りがちで、声を上げて泣くばかりです。

 

 それを見て咎める人もいて、「物の怪の病ではないのか」という人もいます。

 

 右近を呼び寄せ、長閑な夕暮れにいろいろ雑談を交わし、

 

 「やっぱ何か変なんだよな。

 

 何で誰だかわからないように正体を隠していたんだろう。

 

 本物のさすらいの海女(あま)の子だったとしても、こんなにも思ってるのに知らないふりして隠し事をしてたなんてひどいよ。」

 

と言うと、

 

 「そんなに最後まで隠し通そうとしていたわけではなかったんでしょう。

 

 そのうち何でもないような名前を名乗ったと思います。

 

 はじめから怪しげな身に覚えのないようなことだったので、正気のこととも思えないと言ってましたし、名前を隠しているのもその程度の気持ちだと言っては、どうせ気まぐれの暇潰しで来ているんだと鬱陶しく思ってるようでした。」

 

という返事で、

 

 「意図せずに根比べになってしまったな。

 

 俺だって隠すつもりはなかったんだ。

 

 ただ、こんな人目を避けて女のもとに通うなんて、慣れてないことだったからだ。

 

 御門にはあれこれ説教されるし、いろいろとタブーの多い立場で、何でもないような冗談を言おうにもすぐにこまごまと問題にされたりして、いろいろうるさい環境にあって、たまたま夕顔の花を貰ったあの夕暮れ以来、妙に気にかかっていて、会いたい気持ちを抑えられなかったのも、こんな短く儚い約束をしようと思ったのも愛してしまったからで、それが今となっては辛くてしょうがない。

 

 こんなにあっけなく終ってしまうとわかってたら、こんな心の底から愛しいと思うこともなかったのに。

 

 なあ、もっと詳しく聞かせてくれ。

 

 今となっては隠すこともないだろう。

 

 初七日から四十九日までの七日ごとの仏事に仏画を奉納するにも、せめてそれが誰だったのか、心の中にだけでも留めておきたい。」

 

と聞けば、

 

 「隠すことなんて何もありませんよ。

 

 ただ、あの人が自分でずっと隠し通していたことを、亡くなったからといって勝手に喋っていいものかと思ってただけです。

 

 両親は早く亡くなりました。

 

 父親は三位中将と聞いてます。

 

 娘のことをすごく可愛がって、良い婿をと思ってたのですが、自分の出世も思うように行かずに嘆いてるうちに若くして亡くなり、その後ちょっとしたきっかけでまだ少将だった頃の頭の中将に見初められて、三年くらい本気で通ってきたのですが、去年の秋の頃だったか、頭の中将の妻の父親の、あの右大臣に強迫されるようになって、ただでさえどうしようもない恐がりな性格でしたので、なすすべもなく屈して、西京の乳母の住んでる所にこっそり隠れたんです。

 

 そこもかなりひどい所で住んでられなくなって、山里にでも引っ越そうかと思っていた所、その方角が今年から天一神の(ふたがり)になっていて、方違えのために怪しげな所に住んだ所で人に見つかってしまったと、溜息をついて悩んでたようです。

 

 普通の人と違って心を固い殻で覆って、人に悩んでいる様子をみられるのも恥ずかしいと思ってか、人に接するにも心を開くこともなく、それはご覧になったとおりだと思います。」

 

と語り出し、

 

 「そうだったのか。」

 

と納得し、ますます気の毒に思えてきます。

 

 「幼い子供がいたがどこ行ったかわからなくなってしまったと中将が心配していたが、その子供は一体?」

 

と尋ねますと、

 

 「確かに。

 

 一昨年の春に生まれた子がいました。

 

 女の子で、とても可愛らしかったですよ。」

 

とのこと。

 

 それを聞いて、

 

 「一体どこにいるんだ?

 

 人には里をわからせないようにして、この俺の所に引き取らせてくれ。

 

 これといって残していったものがなく残念に思ってたところに、こんな素晴らしい形見があったなら、どんなに幸せなことか。」

 

と頼んでみます。

 

 さらに、

 

 「本当は頭の中将にも伝えておかなくてはいけないのだけど、俺が殺したみたいに非難しかねない。

 

 表向きも俺が妻としての約束を交わした人の子だし、頭の中将とも姻戚関係があるのだから、俺が育てることには何ら問題はないということを、育てている乳母などに別の理由をつけて連れて来てくれ。」

 

などと説得を試みます。

 

 「それはきっとお喜びになることでしょう。

 

 あの西京の乳母の所に置いておいたのでは心苦しいことでしょう。

 

 ちゃんと育てられる人がいなくて、預けっぱなしなんです。」

 

との、快い返事です。

 

 静かな夕暮れで空の景色はとても悲しげで、正面の{前栽|せんざい}は至るところ枯れ始め、虫の声もかすれたように弱々しく、紅葉がようやく色づくあたりは絵に描いたように美しく、それを見渡して右近は、思いもかけず素晴らしい就職先が見つかったと、あの夕顔のあばら家を思い出すと気後れさえします。

 

 竹の植え込みの中に(いえ)(ばと)という鳥が、野太い声で鳴くのを聞いて、あのお化け屋敷でこの鳥が鳴いて、夕顔がひどく恐がっていたのを面影にまざまざと思い出すと、

 

 「年はいくつだったんだい?

 

 何かこの世の人でないかのような消えそうな感じに見えたし、それであまり長く生きられなかったのか。」

 

と言うと、

 

 「数えで十九にはなってましたか。

 

 あの人には亡くなったもう一人の乳母がおりまして、右近めはその残された子供でして、三位中将殿に可愛がられて、乳母が死んだあともそのまま屋敷においてくれて育てられた恩を思えば、どうやってこれからおめおめと生きてられましょうか。

 

 こんなにもあの人が愛しいのが、悔しいくらいです。

 

 何にしても自信なさそうにふるまってたあの人の性格ですが、それでも頼れる人と見て長年親しくさせていただき‥‥」

 

と答えます。

 

 「そういう気弱そうな所が、女は可愛いんだ。

 

 頭が良くて男に従おうとしない女は好きになれないね。

 

 俺自身そんなに仕事人間ではないし真面目一辺倒な人間でもないし、女もただ優しくて、ちょっとドジな所があって人にすぐ騙されたりして、それでいて慎ましやかで、男の意向に従うところが可愛いんで、自分の意のままに育成して、始終一緒にいたい。」

 

などと言えば、

 

 「そうした好みの人には、そう遠くない人だったと思うと、残念でなりません。」

 

と言って泣き出しました。

 

 空が急に曇ってきて風も冷ややかになる折、ひどく悲しみに打ちひしがれたように考え込み、

 

 「あの人の煙が雲になるのなら

     暮れてく空も恋人のよう」

 

と一人つぶやくだけで、返歌はありません。

 

 こんな時に右近は自分ではなく、あの人がいたならばと思い、胸がぎゅっと締め付けられるように悲しくなりました。

 

 耳障りだった砧の音も、今では懐かしく思い出し、「八月九月まさに長夜」と白楽天の『夜砧を聞く』を朗読すると、横になりました。

 

   *

 

 あの伊予の介の家の娘君、二条院に参上する機会はあるものの、源氏の方から以前あったような伝言もしてこなくなったので、つれなくされたと思ってあきらめたかと可哀想にと思っていたところ、例の病気の噂を聞いて、さすがにふっとため息が漏れました。

 

 伊予の介と一緒に遠い任地に下るとなると、さすがに心細いので、本当に忘れてしまったのかと試そうと、

 

 「ご病気との知らせを承り、心痛に耐えぬ所ですが、口に出してまではどうしても、

 

 訪わぬのをなぜかも問わず時は過ぎ

     一体どれほど悩んだことか

 

 本当に益田の池ですね。」

 

 今までなかったことに、この人も好きだったことを急に思い出します。

 

 「我ぞます田のいけるかひなきだなんて、誰がわざわざ言うことですか。

 

 空蝉の世がつらいのは知ってたが

     今の言葉を生きる力に

 

 空しいことですが。」

 

と手もわなわなと震えながら、乱れた文字で書くのも、また格別の書となります。

 

 今も猶あの抜け殻を忘れてないのは困ったことだけど、笑っちゃうようなことでもあります。

 

 こんなふうに一見全然憎しみなどないように文を交わしたりはするけど、実際に親しくなろうなどとは思うべくもなく、取るに足らない女と思われることなく終りにしたいというのが本音でした。

 

 もう一人の女の方は、蔵人の少将が通ってるという話です。

 

 「やべー、どう思ってるかなー」と少将の心中が気の毒に思えるし、それでもその人の様子が気になってしょうがないので、あの弟君に「死の淵から蘇ってなお思う心をわかってください」と伝言を託します。

 

 「ほのかでも軒端の荻に結ぶ露

     なければ何の口実もない」

 

 背の高い荻だけに、いくら「密かに」と言っても、間違って少将に見られて自分だということがばれても、それでも罪を許してくれると思う心の驕りがいやらしいところです。

 

 少将のいないときに手紙を見せると、今さら困ったことだと思いながらも、こんなふうに思い出してくれたことは満更でもなく、返歌はすぐに返さなくてはいけないからと言い訳しつつも持たせます。

 

 「ほのめかす風は冷たく荻の葉の

    下半分は霜に凍てつく」

 

 字が下手なのをごまかして変に格好つけて書いているあたり、品がありません。

 

 夜の薄明かりで見た顔を思い出します。

 

 「結局仲良くなることもなかったけど、向こう側に座ってたあの人は、俺とのことが知られたからといって急に嫌われて離縁されるなんてこともないだろう。

 

 周りに頓着せずに自信満々にはっちゃけた感じだったな。」

 

と思い出すと、やはり憎めません。

 

 こうして懲りることなく、これからも心の赴くままにスキャンダルをくり返して行ことでしょう。

 

   *

 

 例の人の四十九日、内密に比叡の法華堂で、簡略化せず、お布施として装束を施すことから始めて、しかるべき金銀もきちんと与えて、お経を上げさせました。

 

 経典や仏像の装飾までおろそかにはしません。

 

 惟光の兄の阿闍梨は大変尊い人で、二つとない見事な法要となりました。

 

 源氏の学問の師匠で親しくしている{文章博士|もんじょうはかせ}を呼んで、{願文|がんもん}を作らせます。

 

 特に名前を出さず、愛しく思っていた人がお亡くなりになったその後を阿弥陀仏ににゆだねる由を、源氏自身が悲しげに綴って差し出せば、

 

 「これで十分で何も書き加えることはありません。」

 

と文章博士は答えます。

 

 「どのような方だったのでしょうか。

 

 その人とわからなくても、これほどまでに悲しませるところを見るに、本当に運命の人だったのでしょう。」

 

と慰めます。

 

 密かに整えさせた装束の袴を持ってこさせて、

 

 「泣く泣くも今日は自分で結う紐を

     生まれ変わって解く日もあるか」

 

 四十九日までは、まだ魂が中有(ちゅうう)を漂うということで、これから六道のどの道に行くのだろうかと案じながら、悲しそうに念誦(ねんじゅ)をしました。

 

 頭の中将の姿を見たときも、わけもなく気持ちが落ち着かなくなり、あの撫子の君の成長した様子を聞かせたかったのだけど、怒られるのが恐くて言い出せません。

 

 あの五条の夕顔の家では、どこへ行ったのかと動揺が広がったものの、そのままどこを探していいかもわからず、右近も帰ってこないので、不可解な事件としてみんなで心配しあってました。

 

 確実な情報ではないが、源氏の噂を聞いてそのせいじゃないかと囁きあい、惟光に問いただしてはみるものの、一切関係がないかのようにそっけなく言い放って、今までどおり女目当てで通ってくるので、完全に五里霧中で、きっと受領のさんざん遊び歩いてるどら息子か何かが頭の中将の怒りを恐れて、どこぞの領国に連れ去ったのではないかという話になってったようです。

 

 この家の主人は西京の乳母の息子でした。

 

 乳母には三人の子がいたのですが、右近は別の乳母の子だったため差別して消息を明らかにしないのだと、泣いて恋しがりました。

 

 右近もまた、うるさく詰問されると思って戻ってこないし、源氏の君も今さら説明してもしょうがないと秘密にしているので、小さな娘がどうなったかも聞かされぬまま、全員行方不明ということでどうしようもなく時が過ぎて行きました。

 

 源氏の君は、せめて夢にでも会いたいと思っていた所、この法事を行なった次の夜に見た夢に、ぼんやりとあの例の事件の起きた屋敷がそのままあって、そこに現われた女もあの時に見たのと同じだったので、空家に住む幽霊が俺に惚れてこんなことになったのだと結論するのも空恐ろしいことです。

 

 伊予の介は十月の一日頃、任地へ向かいました。

 

 女房たちも一緒に行くということで、餞別にも格別な心遣いを以てして贈りました。

 

 それとは別に、個人的な餞別も特別に贈りまして、繊細で美しい櫛や扇もたくさん用意し、道祖神に捧げる幣などもわざとらしく添えて、例の小袿(こうちぎ)も返しました。

 

 「逢えるまであなたの代わりにしていたら

     すっかり袖が変色しました」

 

 いろいろ言うべきこともあるけど面倒なので省略。

 

 源氏の君からのお使いの者を帰したあと、弟君に小袿の返歌をのみ託しました。

 

 「今は蝉も衣更えして夏服が

     返ってきても泣くばかりです」

 

 源氏の君は、いくら思っても妙に並外れた強情さで離れ離れになってしまったなと、しみじみと思いました。

 

 今日から冬になる日にふさわしく、にわかに時雨れてきて、空模様もひどく悲しそうです。

 

 それを眺めながら物思いに耽るうちに日が暮れて行くと、

 

 「この前も今日も別れて道二つ

     どちらへも行けず秋は終った」

 

 それにしても、誰にも言えない隠し事は苦しいものだと思い知ったことでしょう。

 

 このようにくだくだと語ってきたことは、隠れてこっそりやっているのにしてもさすがにお気の毒なことなので、皆漏らさずにおいたことだったのですが、大抵の場合、御門の皇子だからといって見る人も欠点に目をつぶって褒め讃えがちなので、いかにも話を作ってるみたいに受け取る人もいるので、あえて記したものです。

 

 

 あまりに無遠慮に語ってしまった罪は免れません。