俳諧ルール、まとめ・

 連歌には『応安新式』『応安新式追加』『新式今案』などの、朝廷の権威でもって広められた公式ルールが存在しますが、俳諧には連歌に準じるというだけで公式ルールはありません。

  俳諧のルールはかなり宗匠の裁量によるところが大きく、一概にいうことはできませんが、概ね連歌のルールよりも緩く作られてます。

  そういうわけで、あくまで目安と思って読んでください。厳密なものではありません。

形式

 連歌も俳諧も何句連ねるかでそれぞれ呼び方があります。

 

  〇百韻─懐紙四枚

  初表八句、初裏十四句、二表十四句、二裏十四句、三表十四句、三裏十四句、名残表十四句、名残裏八句。

 

 〇五十韻─懐紙二枚

  初表八句、初裏十四句、名残表十四句、名残裏十四句

 

  〇世吉(四十四句)─懐紙二枚

  初表八句、初裏十四句、名残表十四句、名残裏八句

 

 〇歌仙(三十六句)─懐紙二枚

  初表六句、初裏十二句、名残表十二句、名残裏六句

 

 〇半歌仙(十八句)─懐紙一枚

  初表六句、初裏十二句

 

 ただし、懐紙が二枚の場合は、撰集によっては「初、名」と表記されているものもあれば「初、二」と表記されているものもあります。二枚目の懐紙を「二の懐紙」と言っても良ければ「名残の懐紙」と言っても良く、厳密な規則があるわけではありません。

部立

 〇春夏秋冬(いわゆる季語がこれにあたります)

  季語は時代によって若干変化しています。今日の俳句の季語をそのまま連歌や俳諧に適用することはできません。特に季語は増える傾向にあり、今日は季語として扱われても、当時は無季だった言葉が沢山あります。

  特に近代俳句では新暦に対応するために、かつて春の季語だったものが「歳旦」に移動しています。近代俳句では春夏秋冬をそれぞれ「初、中、晩」の三期に分け、それに歳旦を加えて「十三季」と呼んでいるようですが、古典を読むにはあまり役には立ちません。

  連歌でも俳諧でも季重なりのルールはありません。正岡子規の俳句でも季重なりの句は幾つもあり、俳句で季重なりのことを五月蠅(うるさ)く言うようになったのは、昭和に入ってからではないかと思います。

 

 〇恋

  中世の連歌では我が身のこととして恋の情を詠む、いわゆるラブソングでしたが、江戸時代はあくまで恋にまつわるうわさ話やネタのことになり、婚姻を廻る周囲のあるあるなども含めて広く解釈されています。

 

 〇旅体(連歌では()(りょ)といいます)

  中世の連歌では、天皇の御幸、左遷や流刑などの旅の苦しみや望郷の念、行脚の僧の情などを詠むものでしたが、俳諧ではひろく旅人の情景や旅行あるあるなどを含みます。

 

 〇述懐(しゅっかい)

  基本的には過去を振り返っての懺悔的な内容を詠むもので、江戸時代の俳諧ではあまり見られません。

  商工業の発達してなかった中世では、貴族でも武家でも嫡子以外だとなかなか別の仕事がなくて、お寺で一生を過ごすのが普通でした。

  嫡子でないのに所領を得ようとすると、親子兄弟で熾烈な争いになり、合戦にまで発展する例も珍しくありませんでした。

  そういうわけで、出家せずにこの世に執着することを戒め、執着する気持ちを「述懐」というかたちで表現する歌に多くの人が共感できたのでしょう。

  江戸時代の町人にはそういう述懐の必然性がなかった、ということではないかと思います。

 

 〇無常(あるいは哀傷)

  人が死んだときの追悼する歌です。

 

 〇神祇

  中世の連歌では神祇信仰を説くものでしたが、江戸時代の俳諧では広く神祇信仰、神社、神主、儀礼などのネタをいいます。

 

 〇釈教

  これも中世の連歌では仏道を説く内容のものでしたが、江戸時代には広く仏教、お寺、僧などのネタをいいます。

 

 生類

 

 〇植物(うえもの)(木類、草類、どちらでもないもの)

  いわゆる植物です。今の生物学上の植物ではなく、普通に目に見える草木のことです。材木や食材になった植物は含みません。あくまでも生きている植物です。

  木類、草類も今日の生物学的な分類とは異なり、蔓性のものは草類として扱われます。木類は直立するもので、藤や萩は草類になります。

  竹や笹に関しては木類でも草類でもないものとして扱われます。

 

 〇獣類

  ほぼ今日の哺乳動物を指します。架空の動物は含みません。

 

 〇鳥類

  ほぼ今日の鳥類を指します。コウモリは獣類です。

 

 〇虫類

  昆虫類だけでなく、百足や蜘蛛なども含めます。

 

 〇人倫

  人間の身分、職業などのカテゴリーや、親子兄弟嫁舅などを表す言葉で、固有名詞は含みません。

  「身」「我」「君」「誰」「友」も人を表す場合は人倫になります。

 

 景物

 

 〇山類(連歌では体と用とに分かれます)

  山や谷など山の景色を表す言葉で、自然の固定されたものは一般的に「体」、流動的なものは「用」になります。「滝」は山類で水辺にはなりません。

 

 〇水辺(連歌では体と用とに分かれます)

  海、川、池、沼などの水辺の景色を表す言葉で、山類と同じように一般的に固定されたものは「体」、流動的なものは「用」になります。

 

 〇居所(連歌では体と用とに分かれます)

  人の住む所を表す言葉で、家や家のパーツ、それに村や里も居所に含まれます。

  家の屋外を表す「庭」や「背面(そとも)」は連歌では「用」になり、それ以外は「体」になります。

 

 〇衣裳

  身に着ける物を表す言葉をいいます。

  〇天象(連歌では光物(ひかりもの)といいます)

  月、太陽、星などの天体のみをいいます。

 

 〇降物

  雨、霙、雪、霰、雹などの降って来るものだけでなく、「露」や「霜」も含みます。

 

 〇聳物

  雲、霧、霞、靄、煙など、なたびくものをいいます。

 

 その他

 

 〇夜分

  夜に限定されるような言葉をいいます。月、星、それに夜灯す灯り、就寝を意味する言葉などがそれです。

 

 〇名所

  基本的には和歌に詠まれる「歌枕」です。

  もちろん「バナナはおやつかどうか」みたいな、分類の難しい曖昧なものも沢山あります。これを「可分別物」といいます。

  たとえば「花の波」は植物なのか、水辺なのか、という問題です。この言葉は海の白く波立つのを比喩として花と呼ぶのか、花の咲く様を比喩として波というのかで違ってきます。

  可分別物の代表的なものは式目にも書かれていますが、それ以外のものは各宗匠がいろいろ細かいルールを定めてます。

  とりあえず、宗匠によっても解釈の分かれる曖昧のものが多く、必ずしも一概には言えない、ということだけ覚えておきましょう。

去り嫌い

 同じ部類に入る言葉は何句隔てなくてはならない、というルールがあります。

  春と春は連歌では七句去りで、俳諧では五句去りになります。概ね連歌の七句去りは俳諧の五句去り、連歌の五句去りは俳諧の三句去り、連歌の三句去りは俳諧の二句去りになります。

  連歌の式目『応安新式』で定められている七句去り(可隔(ななくへだてる)七句物(べきもの))は以下のものになります。

 

 「同季 月与月 松与松 竹与竹 夢与夢 涙与涙 船与舟 田与田 衣与衣」(『連歌論集 下』伊地知鉄男編、一九五六、岩波文庫p.301

 

 五句去り(可隔(ごくへだてる)五句物(べきもの))は以下のものになります。

 

 「同字 日与日 風与風 雲与雲 煙与煙 野与野 山与山 浪与浪 水与水 道与道 夜与夜 木与木 草与草 獣与獣 鳥与鳥 虫与虫 恋与恋 旅与旅 水辺与水辺 居所与居所 夕与夕(時分) 述懐与述懐 神祇与神祇 釈教与釈教 袖与袖 衣裳与衣裳(如此同類) 山与山名所 浦与浦名所」(『連歌論集 下』伊地知鉄男編、一九五六、岩波文庫p.301

 

 三句去り(可隔(さんく)三句物(へだてるべきもの))は以下のものになります。

 

 「月 日 星(如此光物) 雨 露 霜 霰(如此降物) 霞 霧 雲 煙(如此聳物) 木に草 虫与鳥 鳥与獣(如此動物)」(『連歌論集 下』伊地知鉄男編、一九五六、岩波文庫p.301

 

 春は三句から五句までだとか、恋は五句までだとか、何句まで続けられるかという規則もあります。

  連歌の『応安新式』には、

 

 「春 秋 恋(已上五句) 夏 冬 旅行 神祇 尺教 述懐(懐旧・無常在此内) 山類 水辺 居所(已上三句連之)」(『連歌論集 下』伊地知鉄男編、一九五六、岩波文庫p.304

 

 

とあるだけで、春の三句以上だとか、恋は二句以上とかいうルールは、実は式目にはありません。

一座物

 同じ部類に入る言葉は何句隔てなくてはならない、というルールがあります。

 

 春と春は連歌では七句去りで、俳諧では五句去りになります。概ね連歌の七句去りは俳諧の五句去り、連歌の五句去りは俳諧の三句去り、連歌の三句去りは俳諧の二句去りになります。

 

 連歌の式目『応安新式』で定められている七句去り(可隔(ななくへだてる)七句物(べきもの))は以下のものになります。

 

 「同季 月与月 松与松 竹与竹 夢与夢 涙与涙 船与舟 田与田 衣与衣」(『連歌論集 下』伊地知鉄男編、一九五六、岩波文庫p.301

 

 五句去り(可隔(ごくへだてる)五句物(べきもの))は以下のものになります。

 

 「同字 日与日 風与風 雲与雲 煙与煙 野与野 山与山 浪与浪 水与水 道与道 夜与夜 木与木 草与草 獣与獣 鳥与鳥 虫与虫 恋与恋 旅与旅 水辺与水辺 居所与居所 夕与夕(時分) 述懐与述懐 神祇与神祇 釈教与釈教 袖与袖 衣裳与衣裳(如此同類) 山与山名所 浦与浦名所」(『連歌論集 下』伊地知鉄男編、一九五六、岩波文庫p.301

 

 三句去り(可隔(さんく)三句物(へだてるべきもの))は以下のものになります。

 

 「月 日 星(如此光物) 雨 露 霜 霰(如此降物) 霞 霧 雲 煙(如此聳物) 木に草 虫与鳥 鳥与獣(如此動物)」(『連歌論集 下』伊地知鉄男編、一九五六、岩波文庫p.301

 

 春は三句から五句までだとか、恋は五句までだとか、何句まで続けられるかという規則もあります。

 

 連歌の『応安新式』には、

 

 「春 秋 恋(已上五句) 夏 冬 旅行 神祇 尺教 述懐(懐旧・無常在此内) 山類 水辺 居所(已上三句連之)」(『連歌論集 下』伊地知鉄男編、一九五六、岩波文庫p.304

 

 

とあるだけで、春の三句以上だとか、恋は二句以上とかいうルールは、実は式目にはありません。

一座物

 単語によっては一巻に何句までというルールがあります。『応安新式』では、

 

一、一座一句物

 若菜 (やま)(ぶき) 躑躅(つつじ) 杜若(かきつばた) 牡丹 橘 女郎花(おみなえし) 檜原 櫨 如此植物

 鶯 喚子(よぶこ)(どり) (かほ)(どり) 郭公 螢 蝉 ()(ぐらし) 松虫 鈴虫 (こおろぎ) 虫 熊 虎 龍 猪 鬼 女 如此動物

 昔 (いにしへ) 夕暮 昨日 夕立 急雨(むらさめ) 雨 嵐 木枯(こがらし) 朝月 夕月 如此類

 隠家 そとも なるこ ひだ とぼそ 閨 如此類

 

一、一座二句物

 春月(只一、在明(ありあけ)一) 夏月(只一、在明(ありあけ)一) 冬月(只一、在明(ありあけ)一) (あかつき)(只一、其暁一) ()神代(かみよ)一、君代(きみがよ)一) 春風(只一、春の風一) 秋風(只一、春の風一) 松風(只一、松の風一) 五月雨(只一、梅雨一) 夕 今日 いほ一(いほり一) 故郷(ふるさと)(只一、名所引合一) 岡(只一、名所引合一) 池(只一、名所引合一) 湊(只一、名所引合一) 宿(只一、旅一) 庭(只一、庭の教など云て一) 雁(春一、秋一) 猿(只一、ましら一) 旅(只一、旅衣など云一) 命(只一、虫の命などに一) 老おい(只一、鳥木などに一) 男(只一、桂男など云て一、如此二句物懐紙可替之)名残(只一、花などに一) 成にけり 思しに 物を(如此置所をかへて二句) 恋しく・こひしき うらみ・うらむ(如此云かへて二句)

 

一、一座三句物

 神(神代一、只一、名所一) 花三(懐紙をかふべし、にせ物の花此外に一) 藤(只一、藤原一、季をかへて一) 櫻(只一、山櫻遅櫻など云て一、紅葉一) 柳(只一、青柳一、秋冬の間一) 落葉(只一、松の落葉一、柳ちるなど云て一) 紅葉(只一、梅櫻に一、草のもみぢ一) 荻(只一、夏冬に一、やけはら一) 薄(只一、尾花一、すぐろ、ほやなどに一) 都(只一、名所一、此内に有べし、旅一) 塩(只一、焼て一、潮一) 岸(只一、彼岸一、名所一) 文(恋一、旅一、女字文一) 狩(鷹一、鶉一、獣一) 鶏(夜鳥一、庭鳥一、異名一) 鹿(只一、鹿の子一、すがる一) 車(只一、水車一、法車一)

 

一、一座四句物

 雪(三様之、此外春雪一、似物の雪、別段の事也) (あり)(あけ)(四季各一) 関(只一、名所一、恋一、春秋などに一) 氷(只一、つらら一、月の氷、涙の氷などに一、霜雪のこほるなどに一) 鐘(只一、入逢一、尺教一、異名一)

 

一、一座五句物

 世(只一、浮世世中の間に一、恋世一、前世後世などに一) 梅(只一、紅葉一、紅梅一、冬梅一、青梅一) 橋(只一、御階一、梯一、名所一、浮橋一)

 (『連歌論集 下』伊地知鉄男編、一九五六、岩波文庫p.299300

 

と定められています。

  このうち、「花三(懐紙をかふべし、にせ物の花此外に一)」は『新式今案』で一座四句になり、各懐紙に「花」の句を出せるようになりました。

  桜の花や比喩としての桜の花を表す「正花」に限るもので、「梅の花」、「牡丹花」、秋の「花野」などは含まれません。

 

  とにかく俳諧のルールは厳密なものではなく、あくまでゲームとして面白くするために適度な難易度を設けているだけなので、あまりルールに振り回されない方が良いと思います。