蕉門俳諧集　中

　　　元禄二年

「水仙は」の巻

　元禄二年の正月、芭蕉が奥の細道に旅立つ三ヶ月前の江戸での興行。

　発句：水仙は見るまを春に得たりけり　　路通

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「衣装して」の巻

　四吟歌仙。年次ははっきりしないが、曾良、路通、前川が新春に揃うとすれば元禄二年しかないという。

　発句：衣装して梅改むる匂ひかな　　　　曾良

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「麦をわすれ」の巻

　元禄二年刊荷兮編『阿羅野』所収。素堂の発句を立て句として野水、荷兮、越人の三吟歌仙。

　発句：麥をわすれ華におぼれぬ鴈ならし　素堂

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「遠浅や」の巻

　元禄二年三月刊の『阿羅野』所収の春の俳諧。

　発句：遠浅や浪にしめさす蜊とり　　　　亀洞

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「美しき」の巻

　元禄二年三月刊の『阿羅野』所収の春の俳諧。

　発句：美しき鯲うきけり春の水　　　　　舟泉

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「かげろふの」の巻

　元禄二年の二月七日、大垣の嗒山の江戸旅宿での興行。

　発句は：かげろふのわが肩に立かみこかな　芭蕉

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「秣おふ」の巻

　元禄二年四月、『奥の細道』の旅の途中、那須余瀬の翠桃邸での興行。

　発句：秣おふ人を枝折の夏野哉　　　　　芭蕉

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「風流の」の巻

　元禄二年四月二十二日から二十三日、『奥の細道』の旅の途中、須賀川の相楽等躬邸での興行。

　発句：風流の初めやおくの田植歌　　　　　芭蕉

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「かくれ家や」の巻

　元禄二年四月二十四日、『奥の細道』の旅の途中、須賀川可伸庵での興行。

　発句：かくれ家や目だたぬ花を軒の栗　　　芭蕉

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「すずしさを」の巻

　元禄二年五月、『奥の細道』の旅の途中、尾花沢での素英、風流も加わっての五吟歌仙興行。

　発句：すずしさを我やどにしてねまる哉　芭蕉

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「おきふしの」の巻

　元禄二年五月、『奥の細道』の旅の途中、尾花沢での芭蕉、曾良、清風、素英による四吟歌仙興行。

　発句：おきふしの麻にあらはす小家かな　清風

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「さみだれを」の巻

　元禄二年五月二十九日から三十日、『奥の細道』の旅の途中、一栄邸での興行。

　発句：さみだれをあつめてすずしもがみ川　芭蕉

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「御尋に」の巻

　元禄二年六月二日、『奥の細道』の旅の途中、新庄での七吟歌仙興行。

　発句：御尋に我宿せばし破れ蚊や　　　　風流

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「有難や」の巻

　元禄二年六月四日から九日にかけて、『奥の細道』の旅の途中の羽黒山で行われた興行で、途中月山や湯殿山を訪ねている。

　発句：有難や雪をかほらす風の音　　　　　芭蕉

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「めづらしや」の巻

　元禄二年、『奥の細道』の旅の途中、鶴岡の長山五良右衛門（重行）宅で六月十日から十二日にかけて行われた俳諧興行。

　発句：めづらしや山をいで羽の初茄子　　芭蕉

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「温海山や」の巻

　芭蕉の『奥の細道』の旅の途中、酒田の伊東玄順（不玉）亭での興行。芭蕉、曾良、不玉の三吟で旧暦六月十九日に始まり二十一日に終っている。

　発句：　温海山や吹浦かけて夕凉　　　　芭蕉

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「忘るなよ」の巻

　芭蕉の『奥の細道』の旅の途中、羽黒山の別当代会覚阿闍梨空送られた発句を元に、芭蕉が脇を付け、不玉らが第三以降を詠んで表六句とし、後に不玉と己百で初裏と詠み、支考と如行で二の表裏を詠み完成させたという歌仙。

　発句：忘なよ虹に蝉鳴山の雪　　　　　　会覚

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「文月や」の巻

　元禄二年、芭蕉の『奥の細道』の旅の途中、直江津での興行。曾良の『俳諧書留』には二十句までしか記されていない。発句は六日とあるが、実際の興行は七日の右雪亭で行われたか。

　発句：文月や六日も常の夜には似ず　　　芭蕉

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「星今宵」の巻

　元禄二年七月七日、芭蕉の『奥の細道』の旅の途中、直江津右雪亭での興行。

　発句：星今宵師に駒引いて留たし　　　　右雪

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「残暑暫」の巻

　元禄二年、芭蕉の『奥の細道』の旅の途中、金沢での半歌仙。芭蕉を含め十三人、北枝、乙州等も参加したにぎやかな興行だった。

　発句：残暑暫手毎にれうれ瓜茄子　　　　芭蕉

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「しほらしき」の巻

　芭蕉の『奥の細道』の旅で七月二十五日、小松の日吉山王神社の神主、藤村伊豆（俳号：鼓蟾）宅での世吉興行。

　発句：しほらしき名や小松ふく萩芒　　　芭蕉

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「ぬれて行や」の巻

　芭蕉の『奥の細道』の旅で小松滞在中、七月二十五日の「しほらしき」の世吉興行の翌日二十六日、歓生（亨子）宅へ招かれての五十韻興行。

　発句：ぬれて行や人もおかしき雨の萩　　芭蕉

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「馬かりて」の巻

　元禄二年八月四日、『奥の細道』の旅の途中、加賀の山中温泉での芭蕉、曾良、北枝による三吟興行。翌日、体調不良のため曾良が芭蕉と別れ、先に伊勢に向かうことになっていて、そのための送別の意味で行われた興行と思われる。

　この歌仙については、芭蕉の指導の内容を北枝がメモした「山中三吟評語」が残されている。「曾良餞　翁直しの一巻」とも呼ばれている。

　発句：馬かりて燕追行別れかな　　　　　　　北枝

「馬かりて」の巻

「あなむざんやな」の巻

　山中温泉で曾良と別れた芭蕉はふたたび小松に戻り、以前に実盛の甲のところで詠んだ発句で、皷蟾、亨子との三吟興行を行う。

　発句：あなむざんやな冑の下のきりぎりす　芭蕉

「あなむざんやな」の巻

「野あらしに」の巻

　元禄二年九月三日、大垣での八吟半歌仙。

　発句：野あらしに鳩吹立る行脚哉　　　　不知

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「はやう咲」の巻

　元禄二年九月四日、美濃大垣の左柳こと浅井源兵衛宅で行われた歌仙興行で、『奥の細道』の旅の途中、先に伊勢長島に向かった曾良と芭蕉はここで芭蕉再会する。

　発句：はやう咲九日も近し宿の菊　　　　芭蕉

「はやう咲」の巻

「一泊まり」の巻

　元禄二年九月六日、『奥の細道』の旅を終えた芭蕉は曾良、路通とともに伊勢長島へ行き、大智院に滞在。九月八日に七吟歌仙が興行される。

　発句：一泊り見かはる萩の枕かな　　　　路通

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「いざ子ども」の巻

　元禄二年十一月一日、伊賀良品亭での六吟歌仙興行。

　発句：いざ子ども走ありかむ玉霰　　　　芭蕉

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「とりどりの」の巻

　元禄二年十一月三日、伊賀半残亭での五十韻興行。十五人の連衆による賑やかな興行だったようだ。

　発句：とりどりのけしきあつむる時雨哉　沢雉

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「霜に今」の巻

　元禄二年十一月伊賀百歳子亭での七吟歌仙興行。

　発句：霜に今行や北斗の星の前　　　　　百歳子

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「暁や」の巻

　元禄二年十一月二十二日、土芳の蓑虫庵での九吟五十韻興行。

　発句：暁や雪をすきぬく薮の月　　　　　園風

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　　　元禄三年

「鶯の」の巻

　元禄三年二月六日、伊賀百歳亭での歌仙興行。

　発句：鶯の笠落したる椿かな　　　　　　芭蕉

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「日を負て」の巻

　元禄三年春、芭蕉の伊賀滞在中行われた五吟半歌仙興行。

　発句：日を負て寐る牛起す雲雀かな　　　式之

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「種芋や」の巻

　元禄三年春、半残亭での四吟歌仙興行。

　発句：種芋や花のさかりに売ありく　　　芭蕉

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「木の本に」の巻①

　秋屋編『花はさくら』（寛政十三年刊）、天然居士編『十丈園筆記』（文政年間刊）、『一葉集』に所収。元禄三年三月二日風麦亭で興行されたとされているが、初の懐紙（十八句目）までは同じで後半部分の異なる一巻が存在する。同じ発句で、珍碩編『ひさご』に発句以外はまったく異なる歌仙があり、そちらの方が良く知られている。

　発句：木の本に汁も膾も桜哉　　　　芭蕉

「木の本に」の巻①

「木の本に」の巻②

　文化七年刊の猪来編『蓑虫庵小集』に収録された、「木のもとに」の句を発句とする歌仙。「元禄三年三月廿七日　伊賀上野風瀑亭にて」の前書きがある。秋屋編『花はさくら』（寛政十三年刊）などに収録された四十句からなる連句と初の懐紙（十八句目）まではほぼ同じ。

　発句：木の本に汁も膾もさくらかな　　　　芭蕉

「木の本に」の巻②

「木のもとに」の巻③

　珍碩編、越人序の『ひさご』（元禄三年八月十三日刊）に収録された「木のもとに」の句を発句とする歌仙。

　発句：木のもとに汁も膾も桜かな　　　　芭蕉

「木のもとに」の巻③

「いろいろの」の巻

　元禄三年春の興行で同年刊珍碩編『ひさご』に収録されている。芭蕉は脇のみの参加で、あと所の懐紙は珍碩と路通の両吟、二の懐紙は荷兮と越人の両吟になっている。